0817
水曜日 晴れと雨
東京の人はつめたい、
と故郷のひとたちが口々にいうので、少しむっとする。
そういうイメージはいまだに残っているらしい。
世田谷のわたしの大家さんは、アパートの隣に建つ家に息子さんと住んでいらして、
たぶんもう90も近いのだとおもうが、たいへんお元気で、
庭の草木にホースで水をやっている音が毎朝する。
帰宅すると、わたしの部屋のドアノブに、
覚えのない白いビニール袋がかかってあった。
セロハンテープで一筆が貼り付けてある。
「おはぎを作りましたので、よかったら召し上がってください」
クリーム色のシンプルな便箋に、見事な達筆で、すこしみとれてしまう。
中には輪ゴムを巻いた使い捨てパックが入っていて、
その透明のふたから、ずいぶん大ぶりなあんこの塊がみっつ、くろぐろと見えた。
住んで三年になるがいままでにこういうことはなかった。
高齢女性の気まぐれがなんだか微笑ましくなった。
おはぎはさっぱりと甘く、美味しくいただいた。
のんきに食べ終わってしまってから、はたと気付いた。
なにかお返しをしなければならないのじゃないか。どういうものならいいのだろう。
相談も兼ねて、母に電話でこのことを話す。
「まあそんなに気にしないでいいんじゃないの、なんか、簡単なもので」
などとずいぶんあいまいな、回答にもなっていない回答がしばらく続いたのち、
「本当に大家さんなのかねえ。もしかしたらべつのひとじゃないの」
と軽く笑って切られてしまった。