東京たち

うその日記/文章の練習

0720

水曜日 晴れ

 

真夏でも布団をかぶって寝たい、

という話で、ビールをのみながら先輩と相づちを打ちあう。

 

ちょっとだけ、重みのようなものが乗っかっていないと、

わたしたちはうまく眠れないのだ。

 

はいりこんですぐの布団は、むしろひんやりとしていて気持ちがいい。

「意外といけるな」と思って肩までしっかりかぶる。

 

それで、結局なんども目が覚めてしまう。

 

先輩は、それでも、徹底している。

バスタオルを下に敷いて、きんきんに冷えた麦茶を飲んで、

扇風機を「強」でかけてから羽毛布団をかぶるらしい。

「やわらかアイス枕」というのも使う。

もちろんシーツも毎日洗う。

 

やっぱり目は覚めてしまうけれど、

日によってはTシャツを何枚も替えながら、

それでも冷房はぜったいにつけないという。

 

おそれいりました。

わたしなどは最初からあきらめて、夜な夜なエアコンだのみになってしまっております。

 

なんで、そんなにがんばるんですか。

思わず聞いてしまった。

先輩はすこしためらったのち、

たぶん、けっきょく、ずっとお化けが怖いんだよね。だから、がんばらないと。

といった。

 

お化けはがんばりで退散できるものなのか。

ことしはいいよね、と、冷夏にささやかな乾杯をささげつつ、

先輩が、実家のお寺の跡継ぎをけってうちの会社にはいったといううわさを、ふいに思い出した。