東京たち

うその日記/文章の練習

0816

火曜日 雨

 

エビの食べ過ぎで肌がほんのりピンク色になっているユイちゃんが、

「ご飯を食べよう」

というので渋谷のタイ料理屋にふたりで入った。

 

とうぜんのようにトムヤムクンを頼んだ。

スープをのむ前から、香りのつよい酸味が鼻にくる。

あとから結構辛くなってきて、でも少し甘みもあるのでどんどんいけてしまう。

 

エビ、ぜんぶ、いいよ。

言うと、ユイちゃんは照れたように笑いながら長袖をめくり上げて、

「また色ついちゃう」

おいしそうなピンクに染まった肌をみせた。

 

ほんとうにそれで悩んでいた頃に調べたらしいのだけれど、

フラミンゴがピンク色なのはエビやらなにやらをいつも食べているからで、

そういうものを食べないでいるとフラミンゴは白鳥のような真っ白な鳥らしい。

 

わたしたぶん、前世、鳥だったとおもう、とユイちゃんは真剣な目で言った。

 

肌が内側から色づいているという違和感は、みていてもぜんぜんない。

ユイちゃんはメイクもうまいし、そもそも辛いものを食べながらお酒を飲んでいるのでわたしもすぐに火照ってくる。

 

大学で知り合ったユイちゃんは曇りの日でも日傘をさしていた。

同じ授業になることが多くて、いつしか、あ、傘の子、と思うようになった。

いつどうやって仲良くなったのかは、でも、よくわからない。

 

酒の場の話題は、共通の知り合いの結婚のことになった。今年に入ってからもう4組目になる。

ユイちゃんは昔からよくもてたし、相手もどんどん変わって、でも結婚とかそういう話が一度も持ち上がったことがないというのがうまく言えないけれどわたしはなんとなく納得できてしまっている。

 

ユイちゃんのつくったエビ料理を毎日食べていたら、自分も肌が染まるのかな、

それってなんだかちょっと羨ましいな、と思った。

いっしょにピンクになってくれる人がいれば最高だけれど、

もしわたしがユイちゃんとつきあっていたらエビはきっと全部あげてしまうだろうし、

いままでもそういう相手ばかりだったからどこかで別れてしまうのかもしれなかった、

などと、ひとのことばかり勝手にあれこれ考える。

 

藤沢にすんでいるユイちゃんの電車は早くて、

わたしは餃子とビールを買って帰って、ひとりの家でもうすこし飲んだ。