0711
月曜日 晴れ
こっち、と言われてゆくと、墓地に出た。
油に落ちた火がいちめんに広がるように、墓地は突然、たちあらわれた。
突然にみえたのは、それまで、ながい坂を手を引かれるままに登っていたからだった。
あのとき、幼いわたしの手をひいてくれた祖母は、ほどなくして、この世のものではなくなった。
ところで、人間というのはけっこういいかげんにできていて、
わたしはわりとどんな坂でも、登りの坂を歩いているというだけで祖母のことや、幼いころのじぶんのことを考えてしまうらしい。
小学校の前を通る。
昨日とはちがって、いつもどおりの姿に戻っている。
いつもどおりすぎて、あんまりじろじろ見つめるのも、なんだか配慮に欠けているように思えてくる。
むかしはじぶんも通っていたはずの建物に、どうもよそよそしくしてしまう。
きのうは、久しぶりに、中に入った。
選挙のために内装をしつらえられた、日曜日の多目的室だった。
やっぱり。と、そのときはおもった。
来てみると、わかる。
ここは、いつまでも、わたしの場所でいてくれていたのだ。
まちがいなくそう感じたはずなのだが、
今日になっておもえば、懐かしさからくる勘違いのようなものだったのかもしれない。
どのみち、これはあまり大きい声では言えないけれど、選挙の投票で小学校に入り込むのは、とてもわくわくすることだった。
投票にゆく権利を得た歳から、わたしは、あの世界一書きごこちのよい紙と鉛筆をひそかにたのしみにしているたくさんの大人のうちのひとりだ。