0630
木曜日 曇り
よく会うひとのことを考える。
よく、といってもたぶん月に一度あるかないか、
おなじ場所ですれ違うというだけだ。
わたしが気づいてないだけで、そんなひとはたくさんいるのかもしれない。
三軒茶屋にはキャロットタワーという、唯一の真っ赤な高層ビルがあって、
家からだと道を覚えていなくてもなんとなくそれを目指して歩くと三軒茶屋にいけるのだけれど、
わたしはそこの無料展望台に、たまにゆく。
曇りの日がいちばんいい。
色味のうすさが、なにも考えないでいるのに、ちょうどいいのだ。
じゃまする建物もほかにないので、東京タワーも都庁もみえる。
楽しみにしながら、ぐいぐい引っ張り上げられるエレベーターのなかにいる。
扉が開いて、すこし飛び出すようにおりると、
そのひとと、すれちがう。
わたしが昇ってきたエレベーターに、いれかわりに乗り込み、すぐに降りていく。
向こうがわたしを覚えているかはわからない。
すれ違うのも一瞬だから、わたしも、相手の顔をはっきりとは知らない。
そもそも、見に来た景色のことでぼーっとしているし、
話すわけでも会釈するわけでもない。
しばらくあと、帰り道の、なんでもない瞬間にふわりと、
そういえば今日も会ったな、と思うだけだ。
今日思い出したのは、
定休日のラーメン屋の貼り紙をみたときだった。
「原材料の高騰により七月一日より一部メニューを値上げいたします。お客様にはご理解のほど宜しくお願い致します 店主」